第1章 表面プラズモン共鳴法を利用したセンサに関する基礎的検討

1.はじめに

 近年、環境問題がクローズアップされ、環境汚染物質のモニタリング技術の開発が求められている。汚染物質は、極微量で影響を及ぼすことから、特異的にかつ高感度にセンシングする技術が必要となる。このようなセンサには、生体分子の持つ優れた分子識別機能とその反応を電気信号に変換するトランスデューサとからなるバイオセンサが有効であると考えられる。生体反応を測定する技術として、表面プラズモン共鳴( Surface Plasmon Resonance, SPR )を利用した測定装置が開発され1)、免疫測定、蛋白吸着現象の測定などの基礎研究の分野で利用されている2)。SPR を利用したセンサは、センサ表面で起こる媒質の変化をリアルタイムで検出できること、センサ表面近傍での測定となることからサンプル量を微量化できること等の利点があり、環境計測用センサに応用可能であると考えられる。

 そこで、SPR を利用した環境計測用センサを開発するために、SPR に関するノウハウを蓄積すべく、SPR 装置を試作し、共鳴現象の観測など SPR に関する基礎的検討を行ったので報告する。

2.実験方法テキスト ボックス:  

図1 Kretschman配置

2‐1.光学系

SPR 装置の光学系は、エバネッセント波を利用してプラズモンを励起する Kretschman 配置3)と呼ばれる光学系を用いた(図1)。入射光には、波長 670nm、出力 3mW の半導体レーザ(MLXK-DB-670-5, キコー技研社)を用いた。受光部には、CCD カメラ(XC-75, ソニー社)を使用した。プリズムは、φ22 の半円筒プリズム(材質BK7)を用いた。金属薄膜は、プリズムに直接蒸着せず、プリズムと同じ材質のガラスに金を約 200nm 蒸着したものを使用した。テキスト ボックス:  

図2 SPR 装置の光学系

2-2.試料

ショ糖(関東化学社)を 0.938 30% 濃度に調製して測定に用いた。

3.結果及び考察

3‐1.SPR 装置

試作したSPR 装置は、半導体レーザのレーザ光が全反射角以上でプリズムに入射でき、その反射光をCCD カメラで受光できるように光学レール上に回転ステージなどを用いて構築した(図2)。繰り返し使用を考慮し、プリテキスト ボックス:  

図3 装置構成
ズムと同じ屈折率を持つガラスに膜厚 200nm の金を蒸着したものをプリズム上面にマッチングオイルで張り付けた(図3)。 CCD カメラの感度が飽和しないようにレーザとプリズムの間に ND フィルタを入れ、レーザ光の強度を調整した。CCD カメラの出力を画像処理ボードを用いてパソコンに取り込み、数値化して共鳴現象を計測できるようにした。数値化プログラムは、LabVIEW(日本ナショナルインスツルメンツ)を用いて開発した。

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図4 入射光の偏光特性によるSPR

3‐2.偏光特性による共鳴現象

試作した装置を使って、レーザの偏光特性による表面プラズモン共鳴現象の有無を確認した。入射光を S 、及び P 偏光した時の空気を測定した。計算から 41 度より大きい屈折角度で共鳴現象が見られことが予測され、実際に 41 度以降で反射光の減衰が観測され、43 度付近で最大共鳴角となった(図4)。

3‐3.ショ糖溶液の濃度測定

テキスト ボックス:  図5 ショ糖溶液の濃度測定
 レーザを P 偏光にして、ショ糖溶液の濃度に対する共鳴角の測定を行った。0.938% 30% のショ糖溶液を測定し、ショ糖溶液の濃度が高くなるにつれ共鳴曲線が右側にシフトしているのが観測され、それにともなって共鳴角も大きくなった(図5)。濃度と共鳴角の関係は、5 30% 濃度で高い相関が得られた(図6)。
テキスト ボックス:  
図6 ショ糖濃度と共鳴角の関係


4.考察

表面プラズモンを励起する方法には、金属表面に電子線を照射する方法と光波を利用する方法がある。光波を利用する方法には、金属表面に回折格子を刻み、光とプラズモンを結合させる方法4)とエバネッセント波を利用する方法2)が提案されている。実用性の点から後者が有利であるといわれている。今回試作した SPR 装置は、この方法で構築した。この共鳴方法は、高屈折率プリズムの面に金属薄膜を蒸着し、プリズム側から薄膜に全反射角以上で光を入射たとき、金属薄膜が十分に薄い場合エバネッセント波が金属薄膜表面に染み出して来る。このエバネッセント波の平面方向の波数と表面プラズモンの波数が一致すると共鳴現象が起き、反射光強度が急激に減衰する。試作した SPR 装置に用いたプリズムの屈折率から空気の全反射角は、約 41 度と算出され、これより大きい反射角の時に共鳴現象が起こることが予想された。実際に約 43 度付近で最大共鳴角となった。また、河田らの報告5)にあるように、P 偏光時のみに共鳴現象が観測された。以上のことから、試作した SPR 装置で表面プラズモンを励起できることが確認された。

試作した SPR 装置でショ糖の濃度を測定した結果、5 30% 濃度で高い相関が得られた。5% 以下の濃度に関しては、分解能が 0.5 度と低いため共鳴角に変化は見られなかったが、分解能を上げることで低い濃度の変化も測定可能であると思われた。今回入射光にレーザ光を用いたため、レーザ光特有の干渉により分解能をあげることが出来なかった。入射光は、 CCD の感度などを考慮すると LED の発光強度で充分であり、LED を光源として偏光レンズなどで P 偏光を作る光学系を採用することで小型の SPR 装置を開発できると思われる。

5.まとめ

 今回、表面プラズモン共鳴を利用したセンサをバイオセンサに応用するための基礎的検討として、表面プラズモン共鳴装置を試作し、偏光特性による共鳴現象の有無、ショ糖溶液の濃度などの測定を行った結果、試作した装置で表面プラズモン共鳴を観測することができた。

 以上のことから、試作したSPRセンサの分解能を高めれば、充分に環境計測用センサとして応用が可能である。

6.参考文献

1)笹井献一:蛋白質 核酸 酵素,37, 2977-2984(1992).

2)E.Kretschmann:Z.Phys.,216, 313-324(1971).

3)中田聖士ら:電気学会論文誌 E, 119-E, 581-586(1999).

4)A. Otto:Z.Phys. ReV. Lett.,216, 398-410(1968).

5)河田 聡:O plus E,112, 133-139(1989).